短編小説

短編小説

「有平糖から始める」 第20回深大寺恋物語 応募作品

年に何回か、深大寺へ足を運ぶ。死んだ祖母に連れられて、何度もきた場所だ。僕が9歳の頃だった。父さんが家を出て行った。その翌年、母さんが死んだ。住んでいたアパートから、調布の祖母の家に引っ越した。祖母には歯がなくて、引っ越した日の夜に笑った祖...
短編小説

「守られし人」 第18回深大寺恋物語 応募作品

郵便受けから一枚のはがきを取り出し、私は思わずその場にへなへなと座り込んでしまった。これから先、二年間の安定した生活が保証されるという通知だからだ。 合格通知書あなたは、本校の介護福祉科に合格したことを通知します。入学説明会を下記の日程で行...
短編小説

地球の裏側へ「ありがとう」

私は横浜にあるショッピングモールの一角で絵を描いている。 いわゆる「似顔絵」と言われるもので、観光客が足を止めてくれたら、すかさず声をかける。 「可愛く描きますよ。似顔絵いかがですか?」カップルの場合は、男性よりも女性に声を掛けるようにして...
短編小説

みんな、教祖を求めてる

宗教を信仰する家に生まれ落ちた。私には、当たり前の毎日。祈りもお布施も慈善活動も。今日も教祖様の教えを乞う為、教本を持って出かける。近所には、別の宗教の集会所がある。朝晩聴こえてくる鈴の音、祈りの声。アヤシイ?コワイ?ヤバイ?友人Aは、自己...
ミステリー

ミステリー小説「十条探偵事務所」

東京都北区、十条駅から十条銀座商店街を通り抜け、少し行った角を右に折れたところにある古ぼけたマンションのニ階。そこが私の仕事場である。玄関ドアに小さく「十条探偵事務所」と白いプレートを貼り付けているが、そこを訪れる客はほとんどいない。なぜな...
短編小説

「水車」 第17回深大寺恋物語 応募作品

三年前のこと。四月のある晴れた日、親父が逝った。肺がんが全身に転移しており、最期は病院の天井を眺めて、人生の終止符を打った。お袋は、俺の成人式を楽しみにしていたが、その前に手の届かない場所へ行ってしまった。俺は、生物学上は雌、つまり女の子と...
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