最低な僕 変わらぬ想い

脚本

某県某所のとある田舎町。木造アパートの1階角部屋。

男の子が物悲しそうに座っている。

10歳周平。

町工場で働く母親の帰りを待っているのだ。部屋の中には母親の再婚相手がいるのだが、二人きりになると暴力を振るわれるので、いつも母親が帰ってくるまで、アパートの入り口で座っている。

 金曜日にはチョコレートが一つもらえる。それを大切に味わい、包装紙はこっそりと隠していた。

10年後、周平は東京にいた。いわゆるマルチビジネス。詐欺ぎりぎりの仕事をしていた。

ある時、アルバイト募集のSNSを見て、ひとりの女子大生が現れる。名前ははる。音楽大学二年生。

 周平は目を見開き、渡された履歴書に目を落とす。

周平「どうしてこんなバイトに募集してきたの?」

はる「音楽教室でピアノの講師のアルバイトをしていたのですが、生徒が減って、私も首になりました」

周平「ふーん。時給2000円、電話をかけるだけってあやしいバイトだと思うでしょ普通」

はる「え、ピアノ講師と同じくらいの時給だったので、良さそうだと思って」

周平「あのね、不採用。これ、マルチだから、あんたみたいなお嬢様には無理。じゃ」

そう言って、席を立つ周平。

1か月後、周平がファミリーレストランへ食事に行くと、

そこにははるが働いていた。

何度か通ううちに交際する二人。

楽しい毎日が過ぎて行く。

ある日、はるの通話を聴いてしまう周平。

はる「もしもし、お母さん。うん、多分。でも、本当はこっちで就職したいんだけど。」

周平「実家帰るの?」

はる「うん、お父さんを説得してもらうようにお母さんに頼んだんだけどやっぱりダメだって。周平「音楽関係で働くの?」

はる「お父さん、市議会議員をしているから、そこの事務所で働くことになると思う」

周平はうつむき、何かを考えている。そして話し出す。

周平「そうか、それなら俺らの関係も春までだな」

はる「えぇ、そんな」

周平「だって、お前は田舎に帰るんだろ。別にお前と結婚するつもりないし。俺、金貯めたら今の仕事辞めて起業するつもりだしさ」

それを聴いて泣き出すはる。

♪最低な僕

10年後

はるの実家がある某県某所。はるは5歳の男の子と手をつないで歩いている。

はるのおなかはふっくらと膨らみ、第二子出産の為帰省していた。

はる「へぇ、こんなところにりさいくるショップが出来たんだ。子供服もある。」

店内から一人の男性が出てきた。

周平だった。

はるはその場でたちすくむ。

はる「周平?なんで?」

周平「なんでって、ここ俺の地元。リサイクルショップと駄菓子屋を開くのが夢だったんだ」

はる「駄菓子屋?」

周平「そう、近所の子どもが集まる場所。奥に駄菓子売ってるんだよ。はるの息子?ちょっと待ってな」

周平はそう言うと店内へ戻り、はるの息子の手にあるものを握らせた。

チョコレートだった。

はるははっとする。そして過去の記憶が蘇った。

8歳の頃、毎週金曜日はピアノ教室。レッスンが終わると先生がチョコレートを一つくれるのだが、虫歯になるからと、あまいものは禁止されている。

通りがかった木造アパートの前、はるより少し年上の男の子が座っていた。

はるは黙ってチョコレートをさし出すと、男の子はちいさく「ありがとう」と言った。

それ以来、はるは毎週金曜日、男の子にチョコレートを渡していたのだった。

しばらくすると、その木造アパートは取り壊され男の子も消えていた。

家に帰り、はるは母親に話す。

「リサイクルショップが出来ていたけど知ってる?」

「えぇ、半年くらい前に、地域の広報誌に載っていたわよ。なんでも、行き場のない子どもの居場所を作りたいから駄菓子屋を併設したリサイクルショップを作ったんですって。ほら、川沿いの町工場があったでしょう。そこの女工さんの息子さんみたい。治安が悪いからって、お父さんが市営住宅を増やすように要望を受けて、古いアパートをいくつも取り壊して、町工場で働く人たちを優先的に市営住宅に入れたのよ」

はる「お父さんが、木造アパートを取り壊させたの?」

母親「まあ、そういうことにはなるけど、良いことをしたんじゃないかしら」

はるは、ひとり泣いた。

周平は、あの日の男の子で、自分の父親が周平を追い出したのだった。

周平は全て知っていたに違いない。

それから二か月後、はるは無事出産を終え、赤ん坊を抱いて、自分たちが住む街へ帰るところ。

その前に、周平のリサイクルショップへ立ち寄る。

はる「周平。ごめんなさい、何も知らなくて」

周平「お前が幸せそうで良かったよ。もう、ここには来るな」

はるは、夫が運転する車に戻り、一人うつむいて泣いた。

周平は、いつまでもその車を見つめていた。

数年後、

周平は、近所のこどもたちに囲まれリサイクルショップで働いている。

はるは、チョコレートの包みを密封容器に入れ、時々匂いを嗅いでは周平のことを想い出すのだった。

♪変わらぬ想い

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