ネズミのティトは5人兄弟。
ひとりだけ、小さくてみどり色をしたティトは、
いつもお兄さんネズミたちにからかわれていました。
「ちびっこティト」
「みどりのティト」
お母さんネズミは、
「どうしてこの子だけみんなと違うのかしら?」とつぶやきました。
ティトは冒険が大好き。
ある日、ティトは1人で森の奥に行きました。
森の奥には、小川が流れていました。
「わぁーキレイな魚がたくさん!」
ティトは嬉しくなって、その場で走り回りました。
すると、小川の向こうに、とても美味しそうな赤い実がたくさんなっている木を見つけました。
でも、小川は広くて流れが早くて渡れません。
ティトは仕方なく家に帰りました。
帰ってから、ティトはお母さんネズミに話しました。
「お母さん、今日、森の奥の小川の向こうに美味しそうな赤い実がたくさんなっていたよ。でも、小川を渡れなかったから、帰ってきたの」
するとお母さんは言いました。
「ティト、1人で森の奥へ行ってはダメよ。」
ティトは悲しくなって、泣いてしまいました。
お兄さんネズミたちにも同じ話をしました。
すると、お兄さんネズミたちは言いました。
「ティトの言うことなんて信じられないよ」
と一番上のお兄さんネズミは言いました。
「ティトが1人で森の奥へ行ったの?変わり者だなぁ。他の動物に襲われてしまうよ」
二番目のお兄さんネズミが言いました。
「ティトは危険だなぁ」
三番目のお兄さんネズミが言いました。
「だってティトは僕たちと違うからね」
四番目のお兄さんネズミが言いました。
ティトはとても悲しくなって、今度は外に出て泣きました。
するとお父さんネズミが帰ってきて言いました。
「ティトどうしてそんなに泣いているんだい?」
ティトは、森の奥で美味しそうな赤い実を見つけたことをお父さんに話しました。
お父さんネズミは、言いました。
「それはすごい!
今日はもう遅いから明日みんなで行ってみよう」
次の朝、お父さんネズミに言われてみんなで森の奥へ行きました。
ティトが言った通り、小川は広くて渡れません。
お父さんネズミが言いました。
「小石を拾って橋を作ろう!」
みんなは一生懸命、小石を拾って、積み重ねて橋を作りました。
「やったー! 橋が完成した!」
「でも誰から渡る?」
一番上のお兄さんネズミが言いました。
「お父さんが一番に渡ろう。みんなあとからついておいで」
お父さんネズミがそろりそろりと橋を渡って向こう岸までたどり着きました。
「次は誰?」
二番目のお兄さんネズミが言いました。
「ぼくは嫌だ」
三番目のお兄さんネズミが言いました。
「ティトが行けよ」
四番目のお兄さんネズミが言いました。
ティトは、
「ぼく行くよ!」
と言って、向こう岸にいるお父さんネズミめがけてそろりそろりと歩いていきました。
その時です。
がらがらがらと音を立てて、積み上げた小石が崩れてしまいました。
「ティト!」
ティトはどんどん流されていきます。
お父さんネズミもお母さんネズミもお兄さんネズミたちも、みんなで追いかけましたが、小川の流れは早くてティトに追いつきません。
「ティト〜!」
とうとうティトの姿は見えなくなってしまいました。
その晩、家に帰って全員で泣きました。
泣いて泣いて、泣き疲れて、
気がついたら朝になっていました。
「ティト、今まで意地悪してごめんよ」
「ティト、帰ってきてよー」
朝起きて、また全員で泣きました。
トントン。
誰かが玄関のドアを叩く音がしました。
「ごめんください」
お母さんネズミがそーっと玄関を開けると、ティトを抱っこしたアライグマが立っていました。
「ティト!」
みんなは駆け寄って、ティトを囲んで大喜びです。
ティトは言いました。
「みんな、せっかく見つけた赤い実を取れなくてごめんなさい。」
「そんなことはいいんだよ。ティトが帰ってきてくれさえすれば、いいんだよ。」
お父さんネズミが言いました。
それを見ていたアライグマは、
「小川の向こうの赤い実を探しに行ったのかい?」
と聞きました。
「そうなの。でももういいわ。ティトが帰ってきてくれただけで、私たちは嬉しいの。 本当にありがとうございました。」
お母さんネズミはアライグマに御礼を言いました。
その日から、ティトはお兄さん達と仲良く遊びました。
もう意地悪をされることはなくなりました。
お母さんネズミも、ティトをたくさん抱きしめました。
しばらくして、玄関のドアを叩く音がしました。
ティトが玄関を開けると、そこには誰もいません。
玄関のドアの前には、木の枝で編んだカゴいっぱいに赤い実がたくさん入っていました。
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