新月の夜

童話

あるむらに、アントンという五さいのおとこのこがいました。アントンは、まいにちいたずらばかりしていました。

あるあさ、おかあさんが、みずをくむために、いどへいってみると、いどのやねには、ぽっかりとまるいあながあいていました。

「アントン、また、いどにのぼったね。」

おかあさんは、カンカンにおこっています。

はたけでは、おとうさんがはたけにいくために、にぐるまをひこうとしたとき、かじぼうがはずれていることにき がつきました。

「あいつ、またやったな。」

おとうさんは、カンカンにおこっています。

べつのひ、ニワトリごやのいりぐちがあけはなたれ、はしごがひっかけてありました。

「アントン、まったくもう。」

おかあさんもおとうさんも、カンカンにおこっています。

「アントン!いたずらはおよし。」

アントンがいたずらをするたびに、おかあさんはアントンをしかりましたが、まったくいうことをききません。

アントンは、しかられるたび、かっているしろねこのあたまをなでていいました。

「ねこはいいなぁ。いたずらをしてもおこられないのだから。ぼくにはかなえたいゆめがあるだけなのに。おまえはまいにち、いったいどこへあそびにいっているというのさ。」

すると、しろねこが、

「ニャーゴ」

と、なきました。

そのよる、アントンがベッドにはいって、うとうとしていると、しろねこがぴょんとベッドのうえにとびのりました。

そして、とつぜんはなしだしたのです。

「アントン、いまからとくべつなよるをすごすけれど、いっしょにくるかい?ねこのせかいをみせてあげるよ。」

アントンは、びっくりです。

「ね、ねこがしゃべった。」

するとしろねこがいいました。

「さぁ、いこう。」

つぎのしゅんかん、アントンのからだがみるみるとちいさくなり、てあしにふさふさのけがはえてきたのです。アントンはいそいでベッドからおきあがり、かがみをみました。

「ぎゃあ。ねこにへんしんしている。」

そうです、アントンはねこになったのです。からだははいいろ、めはきいろ、ながいしっぽはしなやかにふわりとうごきます。

しろねこは、アントンのへやをでていってしまったので、アントンはいそいでおいかけました。

「てとあしをつかってあるくなんてふしぎだなぁ。」

アントンは、じぶんがおもうよりもじょうずにあるけています。

しろねこは、キッチンのこまどにとびのり、あたまできようにまどをあけました。

そして、ちらりとアントンのほうをふりかえり、ついておいでといっているようなかおをして、まどのそとへとびだしました。

「ちょっとまってよ。」

五さいのおとこのこがとびおりるには、すこしこわいくらいのたかさでした。けれどもいまのアントンはおとこのこではなく、はいいろのねこです。

「えいっ」

と、ゆうきをだしてめをとじたままジャンプすると、アントンのからだがちゅうにふわりとういて、まるでとんでいるかのようにじめんにちゃくちすることができました。どこもいたくはありません。けがはないようです。

しろねこは、ずんずんとあるいていきます。にわにある、いばらだらけのバラのはなをひょいとよけて、アントンのおかあさんがそだてているブルーベリーの木のまえにちょこんとすわりました。

アントンがしろねこにおいつくと、

「さあ、まずははらごしらえをしようじゃないか。」

と、しろねこがいい、まんまるのブルーベリーを一つ、ぱくりとくちにふくみました。

「たいへん、またおかあさんにしかられてしまうよ。」

「なぁに、すこしくらいいただいてもきづかれないさ。」

と、しろねこはにやりとわらいました。

アントンは、すっぱいブルーベリーがにがてです。でも、しろねこがアントンにブルーベリーをとって、さしだしてくれたので、アントンはそうっとかじってみました。すると、なかからあまいしるがでてきたのです。

「おいしい。」

「そうだろう。」

しろねこは、とくいげなかおをしてさっさとあるきだしました。

つぎに、となりのいえのオリーブのきのしたにやってきました。

「アントン、いまからおまえのゆめをかなえてあげるよ。こんやはとくべつなよるだからね。」

アントンはふしぎにおもいました。

「ぼくのゆめ?」

「あぁ、そうだよ。」

そういうと、しろねこは、オリーブのきをするするとのぼっていきました。

「ちょっとまってよ。」

アントンはしろねこのまねをしてみると、いともかんたんにのぼることができました。 

しろねこは、とおくのそらにむかって、

「おうーい。」

と、おおごえでよぶと、どこからともなくバサバサと二ひきのとりがやってきました。そのとりは、なんとペリカンでした。しろいからだにおおきなきいろのくちばし。いまにもたべられてしまいそうです。アントンが、オリーブのはっぱのかげにかくれていると、しろねこがふりかえっていいました。

「なぁに、こわがることはないさ。」

そうして、ペリカンになにやらはなしかけています。すると、一ぴきのペリカンがしろねこのくびねっこをつかみ、そのままふわりとおおぞらをとんでいくではありませんか。

「ちょっとまってよ。」

と、アントンがはっぱのかげから、かおをだしたそのとき、もう一ぴきのペリカンがアントンのくびねっこをおおきなくちばしでつかんで、はねをバサバサとあおぎ、おおぞらへととびあがりました。

ちょうど、アントンのいえがみえて、まどべにおかあさんのねがおがありました。

「おかあさん。たすけて。」

アントンがさけんでも、おかあさんにはきこえていないようです。

ペリカンは、ゆっくりととびつづけます。

アントンはしばらくめをつむっていましたが、おそるおそるめをひらきました。すると、そらにはぼんやりとした、しろくてまるいつきが、あやしげにあらわれました。きょうはしんげつなのです。そのまわりを、たくさんのほしがひかり、アントンをてらしています。

「わぁ、すごい。ぼく、そらをとんでいる。ねこにへんしんして、そらをとんでいる。」

そうです。アントンは、そらをとんでみたいとおもって、いつもそらをとぶれんしゅうをしていたのです。

しばらくとんでいくと、ペリカンはゆっりといけのほとりにおりたちました。

そこには、しろねこがゆうがにまえあしでかおをあらっているすがたがみえました。

そうして、アントンがとうちゃくするのをまって、ふたたび「おうーい」とさけびました。するとこんどは、いけのなかからワニがあらわれたのです。

「こんどこそたべられてしまう。」

アントンはそうおもいましたが、しろねことワニはなにやらはなしています。そうして、しろねこはワニのせなかにのりました。

「さぁ、アントンもおのり。」

と、しろねこにいわれて、アントンはワニのちゃいろくてゴツゴツとしたせなかに、おそるおそるのりました。

「どこへいくの?」

と、たずねても、しろねこはだまったままです。ワニがいけのなかをゆっくりとおよいでくいくと、きしにつきました。

しろねこは、ワニのせなかからおりて、ワニにおれいをいうと、くさむらのなかをずんずんとすすんでいきます。アントンもはぐれないようについていきます。

するとめのまえに、ふるびたやかたがあらわれました。アントンがしろねこについてなかにはいると、なんとそこにはたくさんのねこがいたのです。みけねこ、シャムねこ、くろねこ・・・。一〇〇ぴきいじょうのねこがいます。

「やあ、みんなおまたせ。きょうは、あいぼうをつれてきたよ。」

ねこたちは、まちでおいしいしょくじができるばしょや、きけんなろじのはなしなどをしています。

そうして、しろねこが、みんなにむかって、

「そろそろじかんだ」

と、こえをかけると、みんないっせいにそとへでて、つきをみあげました。

「やはり、しんげつのうすあかりはきもちがよいですな。」

「ふしぎなちからがわいてきます。」

「またつぎのしんげつがたのしみですね。」

そうくちぐちにいって、ねこたちはしずかにそのばでねむりにつきました。

アントンもいつのまにかねむってしまいました。

めがさめると、アントンはいつものようにじぶんのベッドでねていました。

 となりでねむっていたしろねこのくちには、ブルーベリーがついていて、アントンのてのひらにはペリカンのはねが一まいにぎりしめられていました。

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