もぐらの道案内

童話

むかしむかしあるところに、太助という男がいました。

 太助は、毎日畑を耕して暮らしていました。

ある日、太助がいつものように鍬で畑を耕していると、隣の畑の伝五郎が言いました。

「おーい太助。最近もぐらがおらの畑を荒らしているんだが、そっちはどうだい?」

 太助は答えました。

「おらの畑には何もいないみたいだ。もぐらっていうのは何だい?」

 伝五郎は答えました。

「土の中でくらす小さな動物さ。ネズミみたいな顔をして、手足で土を掘りながら畑の中を移動して暮らしているのさ。」

 太助は言いました。

「そいつは伝五郎さんの畑の野菜を食べるのかい?」

「いいや、野菜は嫌いみたいだ。けれども、畑に穴をぼこぼこと開けられて困っているのさ。」

「それは大変だ。しかしそのもぐらとやらの顔を見てみたいものだ」

伝五郎は言いました。

「今度もぐらを見つけたらこの鍬で叩いてやるのさ。」

「それは大変だ。もぐらにとったら一大事だ。それならおらの畑へそのもぐらとやらを追いやっておくれ。」

「それは良い考えだ。今度もぐらに出くわしたらそうさせてもらうよ。」

太助は、伝五郎から聞いたもぐらという生き物に興味がわきました。

それから何日かして、太助が畑へ行ってみると、ところどころに小さな穴が開いていました。穴の周りには土の山がこんもり積みあがっておりました。

「おやおや、どうやらもぐらがおらの畑へやってきたようだ。ずいぶん元気が良いみたいだ。あちらこちらが穴だらけだ。これは伝五郎の言う通りだな。けれども、野菜を食べないのならば、好きに掘ったら良いさ。」

太助が腰をかけて待っていると、土がもそもそと動いて小さな顔がひょっこりとあらわれました。

「ようやくもぐらのお出ましだな。おやおや、ずいぶんと可愛い顔をしているねぇ。」

 もぐらは、掘った土の中からミミズを見つけると、二つの手で上手に土をしごいてミミズの腹から土を吐き出させ、ミミズをつるりんと飲み込みました。

「おやおや、お前はミミズを探して畑の中を掘っているのだね。そうかそうか。今度ミミズをみつけたらその穴に放り込んでやろう。」

 そう言うと、太助は万納くわで優しく土を掘りました。すると、出るわ出るわミミズの大群。それを先ほどのもぐらの穴へポイっと放り込んでやりました。

次の日、太助は野菜の種を植えるために、こてでそうっとくぼみを作りました。すると、また新しい穴が出来ていました。

「おやおや、もぐらがまた新しい穴を掘ったようだね。」

そう言って、太助は見つけたミミズを新しい穴へ入れてやりました。

次の日も次の日も、太助が畑へ行くと、ひょっこりともぐらが顔を出すので、毎回新しい穴へミミズを入れてやりました。

ひとりでさみしく暮らしていた太助は、毎日もぐらと会えるのが楽しみでなりませんでした。

ある日、隣の畑の伝五郎が太助を訪ねてきました。

「最近、おらの畑の野菜の出来が悪くてたまらねぇ。にんじんはちいさいし、ほうれんそうは背が低いままだ。」

 太助は言いました。

「それは大変だね。うちの畑の野菜はいつも以上に大きく育っているよ。もう少ししたら収穫して売りに行くところさ。」

伝五郎は、どうして隣同士の畑なのにそんなに違いが出るのか不思議でなりませんでした。

 伝五郎は悔しくて、太助に嘘をつくことにしました。

「おーい太助やい。この先に新しい屋敷が出来て、そこの主が野菜を高値で買ってくれるそうだよ。」

太助は言いました。

「伝五郎、その話は本当かい?」

「あぁ、本当だとも。おらの畑の野菜ももう少し大きくなったら売りに行くつもりさ。太助の野菜はずいぶん大きく成長したみたいだから、先に行くといいよ。」

伝五郎はにやりと笑いました。伝五郎は作り話をしたのです。

けれども、伝五郎の話を信じ切った太助は大喜びで野菜を収穫しました。

いつものもぐらが、またひょっこり顔を出したので、またミミズを穴へ放り込んでやりました。

太助は、人参、枝豆、ほうれんそうにじゃがいもを、かごいっぱいに詰めて背負いました。そうして伝五郎の家に行きました。

「伝五郎、この前話してくれた屋敷への行き方を教えておくれ。」

伝五郎は言いました。

「これから屋敷へ野菜を売りに行くのだね。もちろん行き方を教えてやるとも。」

伝五郎は道へ出て指をさして言いました。

「この道をずうっとまっすぐいくだろう。そうして川が見えたら向こう岸へ渡ってから右へ行くのさ。そしてお地蔵さんがある角を左に行った先がお金持ちの屋敷さ。」

伝五郎はでたらめを教えると「くっくっく」と笑みを浮かべました。

そうとも知らない太助は、勇んで歩きだしました。

「伝五郎、教えてくれて、どうもありがとう。」

太助はニコニコしながら大きく手を振りました。

 太助は、伝五郎に言われた通りに道をまっすぐ進みました。けれどもなかなか川が見えてきません。そうこうしているうちに日が暮れてきました。

「まずいぞ。このままではたどり着く前に夜になってしまう。」

太助は不安になってきました。

 「あぁ、もうだめだ。疲れて足が動かない。」

そう言って、太助は近くの木の下で休むことにしました。

「あぁ、おなかがすいたなぁ。持ってきた野菜を食べようか。けれどもこれは売り物だから食べるわけにはいかない。」

そう一人つぶやくと、太助のお尻がかすかに揺れました。

「おやおや、なんだろう。」

すると、土がもりもりっと地面から沸き上がり、もぐらが顔を出したのです。

「おやおや、お前はもぐらだね。どうしたんだい。こんなところまで。」

するともぐらは、また穴の中へもぐりました。そして、太助の目の前の土がみるみるうちに一本のまっすぐな線を描いたのです。

「おやおや、もぐらの道案内かな?ついていってみるとするか。」

しばらく太助がその線に沿って歩いていくと、なんとミカンの木にぶつかったのです。

「おお、ありがたい。ちょうどのども乾いていたのだ。もぐらよ、ありがとう。」

太助は木に登ってみかんをもいで、おなかいっぱい食べました。

 もぐらは、土の中へもぐってしまいました。

「あぁ、満腹だ。今日のところはこの木の下で休ませてもらうとしよう。」

空には月が輝き、温かい風が太助の体をそうっと撫でていきます。太助は幸せな気持ちで眠りにつきました。

次の日、太助はまぶしい太陽の光で目が覚めそました。

「あぁ、よく寝た。」

そう言って、また木に登り、みかんをおなかいっぱいにほうばりました。

それから、5つのみかんを背負ってきたかごに入れて、また歩き出そうとしました。

けれども、道がわかりません。

「まいったまいった。川へ出なければいけないのに。」

するとまた、地面がもりもりっと動いてもぐらが顔を出しました。

「おやおや、もぐら。昨日はどうもありがとう。」

太助がそう言い終わらないうちに、またもぐらは土の中へもぐってしまいました。そしてまた、一本のまっすぐな線を描くではありませんか。

今度もまた、もぐらの描いた線に沿って歩いていくとなんと川へ出たのです。

そして、おどろくことにもぐらが川をすいすいと泳いで渡っているではありませんか。

「おやおや、もぐら。お前は水の中を泳げるのかい。これはたまげた。」

もぐらは向こう岸へ着くと太助の方を振り返り、「こっちへこい」と言っているようでした。

太助は、ぞうりをぬいでゆっくりと川を渡り始めました。冷たい水が太助の足をくすぐり心地良い気持ちになりました。

太助が川を渡りきると、少し先にお地蔵さんがありました。

「おやおや、お地蔵さんだ。伝五郎の話では、お屋敷までもうすぐのはずだ。」

太助は、お地蔵さんに手を合わせてみかんを一つおそなえしました。伝五郎に言われた通り、角を左に曲がると、目の前に大きな屋敷が見えました。

「おやおや、これが伝五郎の言っていた屋敷だな。たいそう立派なお屋敷だ。きっと野菜をたくさん買ってくれるに違いない。」

太助は家の前の門を開けて、大きな声をあげました。

「ごめんください。」

すると「はーい」と優しい女の声がしました。

太助が事情を話すと、そのおたみという娘は首をかしげて言いました。

「伝五郎さん?そういう方は存じ上げませんが、私の父上が病に倒れてちょうど新鮮な食べ物が必要だったのです。ですから、そのかごの中のものをすべて買わせていただきます。」

そう言って、たくさんの金貨と交換してくれました。

太助が帰ろうとすると、

「すみませんが、少し手伝って頂けませんか?」

と、おたみに声をかけられました。

「もちろんですとも。私にできることでしたら何なりとお申し付けください。」

と答えました。

太助は、おたみに言われて、まき割りをすることになりました。

太助がまきを割っている間に、おたみは、太助から買い取ったみかんを父上に食べさせていました。

すると、父上の顔色がみるみるよくなっていったのです。

おたみはおどろきました。

「お父上。具合が良くなったのですか。」

「これはなんだ。こんなにうまいものは初めて食べたぞ。あまくてすっぱくて、体じゅうに染み渡るようだ。」

それを聞いて、屋敷の主である父上におたみは太助の話をしました。

屋敷の主は言いました。

「その太助という男をもてなしてやりなさい。」

そう言われたおたみは、太助の割ったまきを使って、太助から買い取った野菜で料理を作り、太助に出してやりました。

野菜を煮込んだその汁は、今まで太助が食べたことのないおいしい汁でした。 

「おらの畑の野菜がこんなにおいしい料理になるなんてびっくりだ。」

それを見ていた屋敷の主が太助に訪ねました。

「お前は一人で暮らしているのかい?」

「はい、そうです。この先の村で畑を耕して暮らしているのです。」

すると、屋敷の主は言いました。

「太助、これからも、野菜とみかんを届けてくれないか?ほうびはもちろんやる。」

太助は大喜びをしました。

「はい、もちろんです。また、収穫してお届けに上がります。」

太助はそう言って、笑顔で村に戻りました。帰り道、再びもぐらに出会いました。

「もぐらよ。お前のおかげで屋敷にたどりつくことができたよ。どうもありがとう。また、おらの畑でミミズをあげるから、帰り道を教えておくれ。」

太助がそう言うと、もぐらはまた、土にもぐって掘りながら、一本の線を描きました。

もぐらの道案内に沿って歩いたので、村までの帰り道は迷わずにたどりつきました。

村に戻ると早速、伝五郎の家に行きお礼をしました。

「伝五郎に教わった通り、屋敷で野菜を売ることができたよ。どうもありがとう。これは帰りにとったみかんだよ。お礼に食べておくれ。」

太助はそう言って、帰り道でとったみかんを3つ伝五郎に渡しました。

伝五郎はびっくり仰天です。でたらめを教えたというのに、太助が屋敷で野菜を売って金貨をもらって帰ってきたのですから。

 それからまた、太助はもぐらに出会う度にミミズをもぐらの穴へ放り込んでやりました。

 それから、何度か屋敷へ通ううちに、太助とおたみは恋仲になり、二人は結婚することになりました。

 おたみの父上が、二人のために新しくて大きな家を建ててくれました。

 太助とおたみは、もぐらのいる畑を耕して、いつまでも仲良くくらしましたとさ。

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