ママはペガサス

童話

大変だ!ぼくは、ママのひみつを知ってしまった。

 ある日、ぼくが幼稚園から帰って、絵本を読んでいた時のことだ。

 「けいちゃん、ママはお風呂掃除とベランダのお花に水やりをしてくるわね。おやつはテーブルの上に出しておくから、絵本を読み終わったら食べてちょうだい。」

 「うん、わかった。」

 ぼくが、幼稚園からもらってきた絵本を読んでいると、お風呂場の方からものすごい音がした。

 ばっしゃーん。

 ずごごごご。

 ぼくは怖くなって、「ママ」と呼んでみたけれど、聞こえていないようで返事はない。

 しばらくして、おやつのクッキーを食べていると今度はベランダに向かって移動する音が聞こえてきた。

 ドン、ドン、ドン。

 ベランダの窓が開いて、水の音がする。けれども、ホースで水をまいている音ではないみたいだ。

じゃばーん。

ぼくは、そおっと歩いて、ベランダの方をこっそりのぞいてみた。そこにいたのは、大きなおしりのゾウだったのだ!

 大変だ!ママがゾウに変身しちゃった!

 しばらくすると、何事もなかったように、ママがぼくの前にあらわれた。

 「けいちゃん、おやつを食べ終わったら公園に行きましょうか。」

 ぼくはドキドキしていた。公園につくと、ママと砂場遊びをすることにした。

 「ママ、トンネルをほって。」

 「うん、いいわよ。けいちゃんはお山を作ってくれる?」

 ぼくが、スコップで砂をかきあつめて、大きな山をほっている時、ふと振り返るとママの姿はなかった。びっくりして、あたりを見渡すと、ぼくの後ろからママの声がした。もう一度ふりかえると、深くて長いトンネルがほってあった。なんだか今日はふしぎな日だなぁ。

 夜になり、ママと布団に入るとあたたかくてきもちが良くてねむくなってきた。

 「ママ、今日ベランダにゾウがいたの。」

 「えぇ!」

ママはとても驚いていた。

 「とうとう、けいちゃんにママのひみつがばれちゃったみたいね。」

「ひみつ?」

 「そうよ、ママはどうぶつに変身できるのよ。今日、お風呂掃除をする時ゾウに変身したの。それから、お風呂のお水を鼻で吸って、ベランダのお花に水やりをしたわ。お砂場ではモグラに変身してトンネルをほったわ。」

 「ママ、変身できるの?すごい!」

 「まだあるわよ。この前、幼稚園に着いて、水筒を忘れていたことに気づいたでしょう?あの時は、チーターに変身して急いで家まで取りに帰ったのよ。」

 「だから、あんなに早く届けてくれたんだね。」

 「まだあるわよ。けいちゃんが1歳の頃、牛乳が大好きでね。スーパーで買ってきた牛乳をすぐに飲み干してしまったの。だからママは牛に変身して、お乳を出したのよ。」

 「へぇ、そうだったんだね。ぼく、全然気が付かなかったよ。」

「それはそうよ。ひみつはばれたらいけないのよ。」

 「それなら、これからどうなるの?」

 「ひみつがばれたら、あと一度しか変身できないきまりなのよ。そのあとはもう何にも変身できないの。」

 「そうなの?ママ、ごめんね。」

 「いいのよ。いつかこの日がくると思っていたから。」

 「ママ、最後は何に変身するの?」

 「そうね、ペガサスなんてどうかしら?」

 「ペガサス?それってどうぶつなの?」

 「そうよ。白い馬ではねがはえていて、空をとべるのよ。」

 「すごい!ぼくペガサスを見てみたい!」

 「けいちゃん、ここでまっていてね。」

 そう言うと、ママは布団から出ていなくなってしまった。つぎのしゅんかん、ぼくの目の前に真っ白な馬があらわれた。そして、ぼくに向かってこう言った。

 「さあ、のって。夜のおさんぽへ出かけましょう。」

 ペガサスは、ぼくをのせると、まどから一気に外へ向かって飛び出した。大きな白いはねをゆっくりと、上下に動かして、空を飛んでいる。

 「ママ、すごいよ!」

 ぼくはペガサスから落ちないようにしっかりとつかまった。ママにだっこされている時のように、あたたかくてしあわせな気分だった。

 満月に照らされたペガサスは、白く輝いてとてもきれいだった。たくさんの星が川のように流れていて、ほほに当たる風が気持ちよかった。 

 気が付くと、ぼくは布団の中にいて、あさひがまどからさしこんでまぶしかった。

 ぼくはゆめをみていたのかな?

 「あら、けいちゃんおきたの。おはよう。」

ママはいつものママのすがたをしていた。 

 「ママ、もう変身できないの?」

 ぼくがたずねると、ママは「ふふふ」と笑った。

 ぼくの枕のとなりには、白くてきれいなはねがおちていた。

 やっぱり、ぼくのママはペガサスだったんだ!でも、これはぼくだけのひみつ。

 

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